FPGAボードなどの製品を海外に輸出する方法を調べました。
工業製品を海外に輸出する際に気を付けるべきことは、輸出規制と関税です。
輸出規制にはさまざまなものがあって、お互いに範囲が重複していたり複雑な制度なのですが、電気電子エンジニアリングの会社として把握しておくべきものは、①リスト規制、②キャッチオール規制、③米国(再)輸出規制(EAR)です。
この中で、今回は最も基本となるリスト規制について説明します。
リスト規制とは、「輸出貿易管理令別表第一」、通称「別表1」に定められた15種類の貨物に該当するものを規制するもので、大量破壊兵器などに用いられる可能性があるものが輸出されないようにするというものです。
具体的には、1:武器、2:原子力、3:化学兵器、4:生物兵器、5:ミサイル、6:先端材料、7:材料加工、8:エレクトロニクス、9:コンピュータ、10:通信関連、11:センサー・レーザー、12:航法関連、13:海洋関連、14:推進装置、15:その他、機微品目 がリストに挙げられているのですが、ハイテク製品ならほぼ、どれかに該当することになるでしょう。
(貨物)輸出令別表第1のマトリクス表 - 経済産業省
注意しなければならない点は、物の輸出だけではなく、技術や役務も輸出規制の対象となるということです。(海外へ回路図や図面、製造方法などを開示することや、外国人や海外に在住する邦人に技術情報を提供することも規制対象となる)
海外で開催する展示会に出展したりすることには十分な注意が必要です。
実際には、以下のようなフローで判定します。
まず、輸出したいものが規制対象(別表1の1~15)に存在するかどうかを判断します。
・対象外の場合
もし、別表1に存在していないならば「対象外」なので、「非該当証明書」を添付して輸出業者(UPSやDHL、郵便局、佐川など)に渡すことになります。ハイテクではない製品の多くは対象外になります。
対象外の場合の非該当証明書というのは、各会社が任意のフォーマットで作って構いません。
・対象貨物の場合
輸出しようとしているものが別表1に存在しているならば、その性能や仕様が規制される内容かどうかを判定します。
ここでは、該当か非該当かを判断することになります。もし、性能が高く戦略物資に該当してしまう場合は経済産業省の輸出許可が必要になるので、面倒になります。
簡単に輸出が可能なのは「非該当」の貨物だけです。なので、輸出する貨物には「非該当である」旨のことを証明した非該当証明書を添付する必要があります。
本来は非該当証明書は形式が決められていないので、自社のフォーマットで自由に作っても良いのですが、それには高度な専門知識が要求されるので、通常の会社はCISTECが発行した項目別対比表やパラメータシートを使用します。
作成の難易度としては、
自社フォーマットの非該当証明書 > 項目別対比表 > パラメータシート
となるので、多くの会社はパラメータシートを使います。
パラメータシートは分野別(エレクトロニクスやコンピュータ)で1冊3000円なのですが、項目別対比表は全項目を含んで8250円ですから、お得です。しかし、実務的には法律の条文そのものなので、パラメータシートのほうが楽です。
パラメータシートを作成して最後に「非該当」にチェックを付けたものが非該当を証明する書類になるので、製品の輸出が可能になります。
なお、パラメータシートは全て日本語で記入して構いません。日本の通関でのみ使われる書類ですから。
具体的に何を判断するか
詳しい記述は省いてざっくばらんに書きます。
汎用の集積回路やCPUでは
- 放射線の耐性がある
- 温度特性が広い
- 化合物半導体(GaAs等?)で40MHz以上のクロックで動作するもの
が規制対象となります。どれか1つでも該当すると「該当」となってしまい輸出が難しくなります。
温度特性が広いとは、-55℃以下や+125℃以上での動作するもの、あるいいは-55℃~+125℃の全範囲で動作するものが対象となります。
それから、
- 端子数が1500より多い
- 基本ゲート伝搬遅延時間が20psより速い
- 動作周波数が3GHzよりも高い
などが規制対象となります。
A/D変換回路では、放射線耐性、温度特性のほか分解能とサンプリング速度でも規制があって、
- 8bitを超えて、10bit以下 ・・・1Gsps以上
- 10bitを超えて、12bit以下 ・・・300Msps以上
- 12bit ・・・250Msps以上
- 12bitを超えて、14bit以下 ・・・125Msps以上
- 14bitを超えるもの ・・・20Msps以上
が「該当」となります。だから、Cosmo-Zの上位品種は該当です。
我らがFPGAは、I/Oのピン数やシリアルトランシーバの総通信速度で決められています。
- I/Oピンが700ピン以上
- シリアルトランシーバが総計500Gbit/s以上
ですから、900ピンのFPGAはぎりぎり。1532ピンくらいになると輸出規制となるでしょう。
FFTプロセッサという項目もあって、例えば16384ポイントのFFTを11.2ms以下の時間で行うものは「該当」となります。ただし、自動車用と鉄道用は規制除外だそうです。超高速のFFTプロセッサも輸出OKです。大人の事情ってやつですね。
波形記録装置という項目もあって、おそらくAD変換器と記録装置を兼ね備えたものを言っているのだと思いますが、
- 10bit 200Msps以上
- 8bit 100Msps以上で磁気ディスクに記録できるもの
が「該当」になるようです。某国が核実験の際にトンネルからケーブルを出していろんな計測装置を設置していたのが衛星から見えていたそうですが、そういうことの記録に使われるからでしょうか。
コンピュータや付属品は、温度範囲が厳しくなって、
- 85℃以上、-45℃以下で動作するもの
- 毎秒8T(テラ)演算を超えるもの
- ADC拡張装置で先の条件に該当するもの
- 複数のコンピュータ間で毎秒2Gバイト以上でインタフェースできるもの
が「該当」します。
ただ、ICの場合ははんだ付けされていたり、全体価格の10%を超えないならば規制対象とはなりません。それでも、リスト規制に沿ってパラメータシートを付けておいたほうが良いでしょう。
では、実際に何をすればよいか
基本的には、CISTECのパラメータシートから関係がある項目を探して、記入して記名押印し、運送業者に渡せばOKです。最後の「非該当」にチェックが付いたパラメータシートが「非該当証明書」になるのですから。
作った製品が「該当」にならないようにするため、海外へ輸出するバージョンと国内向けバージョンの2種類を作り、ADコンバータやFPGAの性能を1ランク下げられるような設計をしておくのも重要です。
もし、「該当」になる場合は経済産業書の輸出許可を取ってください。
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