福島の処理水をトリチウムを海に流すなという声に対して、韓国はもっと流しているという反論があるようですが、この問題を深く掘り下げてみることにしました。
ツイッター界隈でよく目にする図があるわけですが、

この図表によれば、
- 韓国の月城原発が毎年136兆ベクレル
- フランスの再処理施設で毎年1京ベクレル
- カナダの原発で毎年495兆ベクレル
とあります。それに対して福島の処理水に含まれるのは全部で1000兆ベクレルだそうですが、全部放出したとしても、世界的に見ればそれほど多いわけではありません。トリチウムで1000兆ベクレルというのはわずか20グラムくらいだそうですね。東京ドーム一杯分くらいある処理水の中に、トリチウムはヤクルト1本分くらいです。海の水は東京ドームより多いのです。
そもそも自然界でトリチウムは毎年7京ベクレル発生しているし、米英仏露中が行った核実験によるトリチウムが180京ベクレルくらいはまだ残って海や大気にあるので、福島の処理水を全部排出しても汚染は0.1%も増えません。
兆とか京とかすごい単位が並んでいますが、アボガドロ数の原子が13年で半分なくなるわけですから、それくらいはあるでしょう。
福島の処理水に含まれるトリチウムを流したからといってどうってことないし、韓国の月城原発の垂れ流す量でさえ微々たるものです。
ですが、韓国の月城原発については調べてみると、いろいろ不可解に思えることが出てきます。
そもそも、なぜ月城原発はこんなにたくさんのトリチウムを出すのかということです。
それは、CANDU型の原子炉だからです。CANDU炉というのは冷却に重水を使った原子炉で、濃縮しないウランをそのまま燃料として使えて、メインテナンスで止める必要がないというメリットがあります。しかし、重水に中性子があたってトリチウムが発生しやすいのと、廃棄物でプルトニウムが多く作られてしまうというデメリットがあります。

中国の秦山原子炉もCANDU炉ですが、それまで濃縮ウランによる核兵器しか作れなかったのが、CANDU炉によってプルトニウム型の兵器を作れるようになったといわれています。

インドの核兵器もCANDU炉で作ったプルトニウムです。
要は、CANDU炉は兵器級プルトニウムに直結しています。
核燃料の廃棄物から燃え残ったウランやプルトニウムを再び燃料にするため取り出すことを再処理と言いますが、生成物が異なるので再処理のやり方が普通の軽水炉と異なってきます。
カナダは天然ウランが豊富で、放射性廃棄物を捨てる土地もあるので、ワンスルーといって再処理をしない方式ですからCANDU炉が経済的にも良いわけです。
経済性の問題からCANDU炉は日本では導入しませんでした。CANDU炉を導入しないということは国際社会に対して核武装は目指していないというアピールにもなると私は考えています。
韓国も日本と同じくウランは輸入に頼っていて土地もないのに、なぜ導入したのでしょうね?
なお、世界中で産業用や研究用に流通しているトリチウムの量は年間100gくらいだそうで、そのほとんどはカナダで作られています。CANDU炉がすごい賢いのか、アメリカやロシアは輸出しないだけなのかはわかりません。トリチウムを海に流している国の上位は、イギリス、フランス、アメリカです。中国とロシアは不明。
トリチウムの用途は、平和じゃない目的としては核弾頭の小型における「ブースト」で必須の材料となります。初期のころの核分裂型の爆弾ではなくて、ミサイルに積んで飛ばしたりするには核兵器を100kgくらいまで小さくして威力を上げる「核の小型化」という技術が必要なのですが、トリチウムがなければつくれません。トリチウムとプルトニウムが多く作られるというデメリットは、核武装を目指す国にとっては都合がよいわけです。
問題は、なぜ韓国がそんなトリチウムとプルトニウムが多く作られるCANDU炉を持っているのかということです。韓国の月城原発の1~4号機がCANDU炉で、1983年から1999年にかけてつくられたそうですが出力は70万kwです。同時期に作られた日本の刈羽柏崎原発は沸騰水型で110万kWです。しかも経済的にもよくないCANDU炉をなぜ作ったのか、謎ですね。
そういえば、1994年にアメリカのクリントン大統領は北朝鮮に軽水炉を2機プレゼントしました。軽水炉の廃棄物に含まれるプルトニウムは濃縮して兵器転用するのが難しいので苦渋の策だったと思うのですが、もしかすると何か関係があるのかもしれませんね。1990年代、国際的にどういう合意があったのか。当時、高校生~大学生であった私にはわかりません。
さて、ウランを核分裂させればいくらかの割合でウランからトリチウムが発生します。重水炉では重水からもトリチウムが発生するので、軽水炉よりも多くなります。CANDUやHWRという炉が重水炉です。
イギリスのAGRというのはガス冷却炉で、発生したトリチウムがステンレスの菅からトリチウムが漏れていく(水素は鉄をすり抜ける)ので排出量が多くなっています。
日本の場合は軽水炉(PWRまたはBWR)なのでそれほど発生する量は多くありません。

再処理施設のトリチウムが桁違いに多いのは、燃料集合体を砕いて粉砕するときに被覆管の中に閉じ込められていたトリチウムが出てくるからで、新たにトリチウムを作っているわけではありません。そういえば日本も再処理工場を建設していたのですが、まだ完成していないはずですね。完成すれば1京ベクレルくらい出るはずですが、新型転換炉ふげんも、高速増殖炉もんじゅも計画が止まったので、再処理をする意味がなくなってしまいました。再処理工場は永遠に完成しないかもしれません。逆にそれが核不拡散の証でもあります。
韓国がなぜ、トリチウムとプルトニウムを多く作るCANDU炉を持っているのか、脱原発や、反原発、反核兵器を訴えかけている人は、そこに注目してみてください。
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