働いても働いても利益が出ず、いつも苦しいのは何故なんだろうとずっと考えていました。
消費税や源泉税の支払いのタイミングできまって資金繰りがショートします。これはいったい何故なんだろうと。(一応、毎期黒字決算にはなっているけど実態は使われなかった部品や基板が在庫を圧迫していてむぐぐ・・)
最近、少しだけ経営的なことを考える時間的な余裕も出てきました。
その結果わかってきたことは、受託開発的な仕事をするときに利益が出るような見積もりをしていなかったのではないかということです。つまり、社長の役員報酬がA円で、1か月くらいかかりそうな仕事なら1.1×A円くらいで見積もりを出していたということです。
例えば、「基板設計が150万円、FPGAが100万円、ソフトが50万円で合計300万円です!エイヤ!」って、過去の類推から非常に大雑把に決めていました。ところが実績ベースでふりかえって計算してみると自分の給料も出ていないのです。
それでも会社が持ちこたえてこれたのはFPGAボードやMITOUJTAG、Cosmo-Zなどの自社製品の売上があるからなのですが、このような価格では従業員を雇うこともできないのは明らかでした。
今まで見積もりを致命的に間違えていました。その大きな間違いの例を5つほど挙げます。
見積もりの間違い① ダメだった作業を工数に含めない
例えばある回路の設計に「5日かかる」と勘や経験で作業量を見積もったとします。積み上げ法とか積算という方法で見積もりをしたことがある人なら、「工数は5日で人日単価がY円なら、5Y円」という見積もりを出すでしょう。
しかし、間違いは大抵「5日かかる」という前提にあります。回路や基板を作る場合でもFPGAの中身を作る場合でも、ソフトウェアを作る場合でも、「5日かかる」と直感的に思ったら正しい回路図を描いて正しいFPGAのRTLを書いている正味の時間が5日なのです。
正しい回路図にたどり着く前に、いろいろなやり方を試してみて、ダメな方法をいっぱい発見して、何度も行き止まりにぶち当たって戻るでしょう。例えば、新規の部品を探す時間や、データシートを読んでいる時間、回路図描いて部品の配線をしてからこの部品はだめだーっとあきらめて戻る時間、シミュレーションしている時間、実際にテスト回路や評価ボードで実験している時間なんていうのもあるでしょう。

そういうダメな方法を試した時間は記憶に残らないので、過去の経験からは本当の作業量の見積もりがしにくいのです。ダメな方法もノウハウとして蓄積されていくので、まぎれもない知的財産ではありますが、お金に変えなければ飯は食えません。
かっこよく言えば研究開発費とでもいいましょうか。お客様からしてみれば正しい方法を探して試行錯誤した時間にお金は払いたくないというかもしれませんね。趣味みたいな研究開発に金は払わんぞと。CADに正しい回路を入力するのにかかった時間だけしかお金を払わないという顧客もいるかもしれませんね。
受託開発の場合、どうしても研究開発的な要素は出てきます。そういった研究開発的な要素をどれだけ見積もりに含めるかということです。
見積もりの間違い② 賃金だけで赤字
初心に戻って「システム開発の見積もりのやり方」を考えてみましょう。よく言われることですが、作業単価は給料の2倍とか3倍で出さなければならないということです。
例えば、50万円の給料の人を雇ったとします。

労働者に支払われる給料は50万円ですが、健康保険と厚生年金と労働保険で20%程度が会社負担となります。また、消費税が10%かかります。(※受託開発で50万円の仕事を売り上げたら5万円の消費税を預かることになるけれども、給与には消費税はかからない。50万円の人を雇うなら税込み55万円の仕事を取らなければならない。)
つまり、消費税と社会保障費で給料の30%は必須なのです。給料を支払ったらその30%を国に支払うのです。累進課税ではありません。社会保障費は20%。消費税は10%。どんなに給料が安くても絶対に取られます。
これは絶対に乗せなければなりません。これを出さないと赤字になって消費税や源泉税の支払いタイミングで死にます。大事なことなのでもう一度言います。給料の1.3倍が絶対赤字ラインです。「絶対赤字ライン」で雇えても会社にはプラスにもマイナスにもならなりません。自転車操業が止まったら会社はこけます。
このほかに事務所の家賃や、間接部門の人件費、その他の一般管理費が20%くらいかかります。労働者の給料の1.5倍くらい稼げれば、こういった間接費を埋めて会社の収支を助けらる人材になります。
ところがそれでは足りなくて、会社に利益を出さなければなりません。会社の利益がないと、仕事がない月には社長がポケットマネーから補填しなければならなくなります。
人を雇う場合、受託金額-賃金=粗利ですが、粗利ギリギリしか稼げないので間違いなく赤字です。社会保障費+消費税分はもちろん、一般管理費と会社利益が出るようにしていかなければなりません。利益も一般管理費の足しも出ないのに人を雇う意味はありません。
では、従業員がいない社長一人の零細企業ならどうかというと、それでも社長の給料×2倍以上で見積もるべきです。
「見積もりのやり方」を調べているとリフォーム業界の例がいろいろヒットしますが、「親方一人の個人商店は、地元の工務店やリフォーム会社より安い」という例がたくさん出てきます。
そうなりたいですか?私はそうなりたくありません。ちゃんと利益を出して発展していく会社にしたいですね。
見積もりの間違い③ 単価が安すぎた
次の図はシステム開発業界におけるごく一般的な職種と給与、作業単価をざっくりとまとめたものです。

日給(賃金)は、作業単価(人日)の半分で計算しています。
我々ハードウェア屋にはなじみのない職種がいっぱい出てきます。ITのコンサルタントとかPMってのが高給取りですね。
コンサルタントというのは顧客に対して課題を分析したり提案したりする仕事で、PMっていうのはプロジェクトの開発チームをまとめていく仕事です。どっちも上流工程ですが、顧客の方を向いているか開発部隊のほうを向いているかという違いがあります。
SEの仕事でアーキテクチャ設計、基本設計、詳細設計というのは良く聞きますが
- アーキテクチャ設計・・・システムの骨格や、進め方、ルール、外部製品やミドルウェアを決定する
- 基本設計・・・モジュールごとのインタフェースを決める
- 詳細設計・・・プログラムが作れるように落とし込む
という違いがあるようです。
電子回路の世界は人が少ないので細分化していられないのが実情で、全部一人でやらなければならない場合もあるでしょう。例えば、A社の新しいADCとOPアンプを使おうとか、FPGAは何を使おうみたいなことを考えている時間は「アーキテクチャ設計」になるので、システム業界ならば1人日6万円という単価になります。ハードウェア屋さんは人が少ない上に育成に時間がかかるので、もっと高く取ってもいいかもしれませんね。
従業員がゼロで社長一人での会社で見積もりを出す場合でも、「回路設計費 一式100万円」みたいにざっくり出すのではなく、
- アーキテクチャ設計・・・部品・回路方式の決定 〇日 単価〇円
- 研究開発費・・・新規開発部分の検証 〇日 単価〇円
- ハードウェア基本設計・・・基板形状、コネクタ、インタフェース、外部接続電圧範囲等の決定 〇日 単価〇円
- ハードウェア詳細設計・・・各IC、モジュール、回路ブロックなどのインタフェース設計 〇日 単価〇円
- 回路図入力・・・CADへの回路図入力作業 〇日 単価〇円
- 基板パターン入力・・・基板パターン図入力作業 〇日 単価〇円
- 基板FootPrint作成・・・新規部品のFootPrint作成 〇日 単価〇円
- 基板検図 基板出図前のデザインチェック 〇日 単価〇円
- 基板出図作業 基板製造業者への指示書作成、発注作業 〇日 単価〇円
というふうに作業項目を細かくわけて、それぞれの作業単価を難易度に応じて細かく出して積み上げていくのが良いかと思います。決定に伴うリスクと影響範囲が大きい仕事の単価を高くして、単純な「入力作業」は単価を安くしてもいいでしょう。単純な入力作業ならアルバイトを雇ってできます。
このように作業内容を細かく書き出すことで、お客様にも、回路・基板設計にどのくらいの作業工数が必要なのかというのを理解してもらいやすくなりますし、値切られにくくなります。値引きする際には作業単価や時間を減らすのではなく「項目を減らす」ということで対応することになるからです。
(続く)
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