ルネサスがまたArduinoやるらしいけど
ルネサスがArduinoやるらしいと聞いて心穏やかではいられません。
https://www.automation-news.jp/2022/06/63271/
おーい、ピンクの基板「がじぇるね」はどうしたんだ。
経緯を話すと長いのですが、GR-SAKURAを設計したのは私です。
2011年の12月ごろ、下の写真のようなRaXinoという基板を作りました。
RX62Nが乗っていて、Arduino形状で、Webコンパイラでコンパイルできるというものです。
当時、ルネサスの業績は低迷していて、同じく秋葉原のジャンク屋パーツ屋「W」も低迷していました。
2011年の展示会か何かの時に、Wの人がルネサスの人にArduinoみたいなことをやろうと持ち掛けたそうなのですが、そのときのルネサスは低迷して気落ちしていたので引き受けてしまったとか。
それで、特電に話が来ました。「御社のRaXinoを半分くらいの値段で作れないか」、と。さらに基板の色をピンクにしたいと。
経緯はともかく、GR-SAKURAはRaXinoの廉価版を作るということで始まりました。
私は面白そうな案件が来たと思って二つ返事で受けてしまいました。実装コスト削減のためにRaXinoの裏面にある部品を表に持ってきて片面実装で済むようにしたり、まぁ頑張りましたよ。
ゴールデンウィークのすべてを費やしてArduino互換のRXマイコン用ライブラリ(RXDuino)を作りました。ハードウェアの試作は自腹です。後から請求したら部品の原価くらいは出ましたが人件費は出ません。今思えばやりがい搾取ってところでしょう。
ピンクのレジストは、私が日本中の基板屋さんにかたっぱしから電話をかけて、作れないかどうかを聞きまくりました。
そもそもピンクのレジストというものはないので、赤のレジストに白のレジストを混ぜて作るのですが、装置を毎回洗浄しないといけないのでどの基板メーカーもやりたがらないようでした。
一社だけ引き受けてくれる業者さん(2022年現在、廃業)があって、その業者さんの使っている基板製造装置は少量のレジストでできるそうで洗浄が手間にならないからだそうです。
ただ、レジストの硬貨する温度だか時間が色によって違うのでひび割れするかもしれないということでしたが、大成功!
こうしてGR-SAKURAの最初の試作基板ができたのです。
なお、最初のファンミーティングで配ったやつと本番のやつとは少しピンク色の色合いが違いますが、透けてみえている内層の透け方が違っていたり、レジストの赤白の配合割合が変わったことにあると思います。色合いは安定しませんがそれはご愛敬。
GR-SAKURAのWebコンパイラはルネサスが内製(おそらく子会社が作った)と思われるので、RaXinoのものではありません。
プロジェクトがギクシャクしだしたのは、極端に金払いが悪いということに気が付いてしまってからです。
メモリが少ないタイプのRXマイコンを急いで2000個仕入れろと言われて、銀行振り込み先払いして仕入れたら「それは使わなくなった」みたいな展開になって、W社は「いつか何とかしますから!」とか「5000台くらいじゃんじゃん売りますから!」みたいな調子のよいことを口で言うだけで、全く金を払う気配がないんですね。ルネサスのプロジェクトリーダーは「アメリカ版で使うかもしれないから持っておいてください」というだけで具体的には何も動かない。使う予定のない部品を買わされて特電の資金繰りを悪化させられたのがトラブルの1つ目です
(このメモリの少ないマイコンは、経緯を書いてヤフオクに出したら、あっという間にルネサスが買い取ってくれたので解決済み)
金払いがおかしいことに気が付いたのはそのときでした。
無事に量産が始まったのですが、W社は安くなければ売れないと思い込んでいて、W社へ卸す価格はほぼ原価。特電は作れば作るほど損をする価格になっていました。それなのに支払いが2カ月とか3カ月とか先に設定されている。
それでもW社はちゃっかり利益を出す価格設定になっていて、特電は作れば作るほど損をする。なんだかおかしい。
そういったことがきっかけとなって、帝国データバンクと東京商工リサーチで信用調査したところ、W社は倒産寸前の財務状況であったことが発覚!!
これはやばい。支払日まで持たないだろうと思い、「W」の本社ビルに行って専務を問い詰めたら「Wの財政を立て直すために始めたプロジェクトだった。Arduinoがうらやましかった」とのこと。「金がないので日付なし小切手で支払う」とか「できるかぎり相殺で支払いたい」とかわけのわからないことを言う始末。
しかもW社某専務は約束の日に支払えるかどうかわからないみたいなことを言う。
ところが数日後には、「生産能力も資金力もないくせに引き受けた特電が悪い。信用調査してWの財政状況が悪いことを理由に一方的に解約しようとするのはビジネスの信義則に反する。発注した分は全部納めろ」みたいなことを言い出す。
いやいや、支払うあても余力もないくせに発注しておいて何が信義則だよ。
ふと気が付くと、もともと特電のRaXinoの色を変えて安く作ったはずのArduino型RXマイコンボードが、いつのまにかWのプロジェクトみたいになっている。プロジェクトの主導権も完全に握られて、価格も安く統制されて、にっちもさっちもどうにもブルドッグ。
いきなり夜逃げされても困るし他の債権者が取り立てにきていないかを調べるため、W社に足しげく通って、店の状況をウォッチングしていたら、2階だったか3階だったかの店主が逃げ出すように移転して、恨み言言いながらホームページ完全消去してるし、こりゃもうだめだな、と。
最初の出荷の1000台(?)については早期回収はあきらめて支払日まで待つこととしました。そこで相談したのが元マイコン少年という異色の弁護士。こういう基板のことをわかっているから状況を的確に理解してくれます。百戦錬磨の弁護士から見ても回収はかなり厳しい状態で、倒産させるとまず回収できないから未納品の現物を少しずつ換金していく戦略にしました。Wには信用悪化を理由にそれ以降の出荷は保留しました。
支払日に支払われない可能性が高かったので、ルネサスの偉い人に相談(告げ口)しました。某社がビルを建ててからの綺麗な右肩下がりの売上グラフを見せたら、某リーダーには「これが1万倍の規模でおきているのがルネサスです」みたいなことを言われる。おい何言ってんだ。他人事じゃないだろ。でも偉い人は「〇〇君、我々は壮大な詐欺に会おうとしていたのかもしれない」と、ようやく危機的な状況を認識してくれました。もしものときはルネサスが救済してくれることとか、W以外が参加しやすいようなアライアンス体制とか約束はしてくれました。・・うーん、約束してくれたのかな、努力するという程度の話かも。それでも偉い人さんが神だか仏に見えました。地獄で仏に会うってこのことです。
まぁ、ルネサスの偉い人に話をした甲斐あったのかもしれません。どういうわけだか少しだけWの資金繰りが改善して、無事に初期ロットの売掛金は回収でき、それ以降はWの支払い能力に応じて、銀行振込先払いで支払える数だけちょこちょこと納品するように変えてもらいました。最後にはGR-SAKURAの設計データを二束三文で売却して終了。あとの量産は勝手にやってください、と。(PROTELのDDBファイルなんで読めないかもしれないけど知らん。Altium買ってね)
W社以外が参加しやすい体制というほうをワクテカして待っていたら・・・特電のほうが切られました。
秋くらいのファンミーティングから、私いなかったでしょ。声もかからなくなったんです。
ルネサスの人はライブラリを公開してくれと要求してきます。「W社以外の企業(例えばA月とかS石とかM津とか)が参入しやすい体制を作り、ルネサスを中心とした緩やかなアライアンスを作るなら、RXDuinoのライブラリは喜んでGPL化する」という話だったのですが、ルネサスはWとともに歩むことを決めました。(より詳しくは下記の<コソコソ噂話へ>)
いまさらWを切ることはできなかったのです。
仕方がないので、RXDuinoのライブラリをGPL化するのを止めました。
こうして特電はがじぇるねと袂を分かつことになりました。
振り返ってみると、なにもかも全部なくなっていました。(何もかもなくなっていたはずですがRXマイコンだけはまだ残っています。高値が付くようであればヤフオクに出そう。)
余談ですが、2012年の年末まで私をメーリングリストから削除するのを忘れていたようで、Wの人が年末にメーリングリストに罵詈雑言メールを送っていたのを見たのが最後です。そういえば、大晦日にドラえもんみてたら脅しの電話がかかってましたね「ブログ消せー」って。そのメールの内容もいずれ書きたいと思います。あのいつもイベントでニコニコと笑顔で調子のいいこという人が、裏ではこんな言葉を発しているんだ・・と驚くような内容です。
ナイジャンだかなんだか知りませんが、電子工作界隈でピンク色で喋るのが上手な人を見たら気を付けてくださいね。
追記
弁護士の先生からは「よくあの状況で全額回収できたなー」と褒められました。
<平成コソコソ噂話>
そういえば、RX63Nを搭載したmbed互換の形状のボードも作ってました。最初はGR-SAKURA-Miniという名前で、そのうちGR-UMEとかGR-PLUMに名前が変わったあの細長いボードです。
断片的に残っているメールを読むと、特電が外された後、あまりにも可哀そうだということでルネサスのリーダー以下いろいろな人たちが動いてくれていたようです。特電の「GR-PLUM」をGR認定ボードにして、GR-SAKURAとGR-PLUMの2つのボードが並ぶとしようとするとか某リーダーは頑張って特電のために何とかしようとしてくれていたようです。
しかし、例のあの人がその動きを察知して猛反発し、頓挫してしまいました。それでも怒りが収まらずルネサスの何人かをW社に謝りに行せたとかなんとか。
私のGR再デビューは頓挫したので、仕方なく自社でRaxino-iという名前で水色の基板を作って売ってみたけれども、全然売れないですね(笑)
GR-PLUMが日の目を見ていればライブラリはGPL化されていたかもしれません。
あんな風につぶされて、どうしてライブラリだけソース公開とかできましょうか?
ないじゃん。
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コメント
自分も、Wに製品開発を依頼されて、というお付き合いありましたが、大規模な案件ではありませんでしたので、損させられることもなく、楽しかった思い出しかないですね。
地下鉄駅前の自社ビルにお邪魔して、創業者から聞かされた、(ちょっと後発だったはずですが)電気街黎明期に商売を立ち上げて、自社ビルを持つまでに成長した、武勇伝は面白かったなあ。その自社ビルを手放す羽目になってしまって、寂しいかぎりであります。
投稿: | 2022.07.01 21:44
Wの社長さんは悪い人じゃないですね。それこそ電気街の発展に貢献してきた人だと思います。今回の件にはおそらく全く関与していないですね。
投稿: なひたふ | 2022.07.02 10:15
これはおそらくK氏がかかわっていると思いました。
私もK氏に詐欺られました。
K氏はWの社員ではありませんが、おおきなふろしきを広げ騙しております。
K氏自身の会社や個人でも破産しております。
お気を付けください。
投稿: | 2022.07.03 22:46
そこら中で焼き畑してますね
今思えばWも被害者なのでしょう。
>お気を付けください。
はい、欠かさずウォッチしますw
投稿: なひたふ | 2022.07.03 22:48
恥
投稿: | 2022.07.07 15:01
GR-SAKURAを使ったボードを使う機会があって、ここにたどり着きました。GR系ってよさげなスキームなのに、なぜ??って感じるところが見え隠れしていたので、なんだかすっきりしました。
投稿: | 2024.05.27 17:07
思いが伝わったようでうれしいです
投稿: なひたふ | 2024.05.27 22:30