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2023.04.12

ADCの入力にOPアンプを追加した場合の雑音の増加について考える

さて、ゲイン11の非反転増幅回路をさまざまなOPアンプで実装して、ノイズの増加について調べてみました。

Opamp6

追加のOPアンプを使わない場合のノイズは0.56LSB(1LSB=244uV)程度ですが、OPアンプを入れることによって若干ノイズが増加します。

  • LMH6624・・・0.83LSB
  • LMP7715・・・0.74LSB
  • LMP7731・・・0.63LSB

です。この結果について考察していきましょう。

まず、OPアンプの非反転増幅回路のノイズは5つの要因で発生します。

  • 入力抵抗で発生する熱雑音 et
  • 入力抵抗で発生する電流雑音 in+
  • OPアンプの入力換算電圧雑音  en
  • 帰還抵抗の熱雑音 √(4kT(Rg||Rf)
  • 帰還抵抗で発生する電流雑音 in-

です。

Opamp7

順番に見ていきます。

まず、抵抗の両端には熱雑音が発生していますが、これは

et=√(4kTRB)

であるのは有名な話ですね。どのくらいの大きさになるかというと、ざっくり言って、10kHzの帯域幅で100kΩなら4μV。100MHzの帯域幅で100kΩならば400μVです。1MHzと1kΩで4μVというのを暗記しておけば、周波数を100倍したり抵抗を100分の1にしたりして暗算できますね。

100MHz 12bitのADCなら1LSB=244μVくらいなので、高速ADCで使うような数百Ωの抵抗ではそれほど問題にはなりません。

 

次にOPアンプのデータシートに乗っている値として入力換算電圧雑音というのがあります。1nV/√Hzなどとかかれたアレです。

これも1nV/√Hzなら、100MHzの帯域幅で10μVくらいにしかならないので、それほど大きな雑音にはなりません。

 

一番厄介なのは入力換算電流雑音です。データシートでは2.3pA/√Hzというふうに書かれますが、ピコアンペアのオーダーなら小さいだろうと思うかもしれませんが、実はこれが意外と大きいのです。

この雑音の意味は、OPアンプの入力端子からバイアス電流が流れ出ているのですが、そのバイアス電流に雑音が乗っているイメージです。バイアス電流は入力抵抗Rsに流れていくので、Rs=1kΩの場合、100MHz帯域ならば23μVになります。

バイアス抵抗だけではなく帰還部分の対GNDのインピーダンスが1kΩならそこでも23μVが発生します。

熱雑音とだいたい同じくらいの大きさに見えますが、熱雑音は√Rに比例するのに対し、電流雑音はRに比例します。

そのため、数pA/√HzクラスのOPアンプだと数kΩ以上で熱雑音よりも電流雑音の方が大きくなります

 

さて、電流雑音というのは半導体のPN接合層を電流が流れるときに生じるもので、その大きさは√(IqB)になります。Iは電流、qは素電荷(1.6×10^-19)、Bは帯域幅です。

だから、OPアンプの場合は、入力バイアス電流が小さいものほど、入力換算電流雑音も小さくなります

例えば、

  • LMP7715は入力バイアス電流は0.05pAで、電流雑音は0.01pA/√Hz
  • LMP7717は入力バイアス電流は0.05pAで、電流雑音は0.01pA/√Hz
  • LMH6624は入力バイアス電流は13μAで、電流雑音は2.3pA/√Hz
  • LMP7731は入力バイアス電流は1nAで、電流雑音は1.1pA/√Hz

個々のICの事情はありますが、入力バイアス電流が小さいほど電流ノイズも小さくなります。電流ノイズが1pA以上になると100MHzの回路で1kΩが無視できなくなります。

LMH6624の場合、電流ノイズが1pA以上ですので、帰還抵抗と入力抵抗を同じ値として計算すると雑音はほぼ電流雑音に起因するものであることがわかります。

Opamp8

対数を取ってみると、だいたい3kΩ以上で電流雑音が支配的になることがわかります。

Opamp8a

 

一方、LM7715の場合、抵抗の値が1MΩになっても熱雑音のほうが支配的です。0.01pA/√HzクラスのCMOS入力OPアンプでは電流雑音を気にする必要はあまりありません。

Opamp8b

トータルの雑音はあくまでも「入力換算」なので、ゲイン倍されて出てくるので注意が必要です。ゲインが大きいアンプほど入力換算雑音は大きく増幅されて出てきます。

3つのOPアンプの雑音を求めてみると、

  • LMH6624, 0.9nV 2.3pA 50MHz→168uV = 0.63LSB
  • LMP7715, 5.8nV 0.01pA 1.8MHz →89μV  = 0.36LSB
  • LMP7731, 2.9nV 1.1pA 8.8MHz →110μV = 0.45LSB

となります。(Cosmo-Zでは1LSBは244μVです。) また、LMP7715は本来は18MHz、LMP7731は88MHzのGB積がありますがゲイン11で使用しているので実際に使えるバンド幅は10分の1程度になります。

上記の雑音が、もとから各チャネルにあった雑音(0.56LSB)と二乗の和で加算されるので、

すると、

  • LMH6624, √(0.56^2+0.63^2)=0.84 LSB
  • LMP7715, √(0.56^2+0.36^2)=0.66 LSB
  • LMP7731, √(0.56^2+0.45^2)=0.71 LSB

となります。

この結果は最初に計測した

  • LMH6624・・・0.83LSB
  • LMP7715・・・0.74LSB
  • LMP7731・・・0.63LSB

とだいたい近い値になっているのがわかります。

このように、OPアンプの挿入によって増加するノイズの大きさを見積ることができました。

 

P.S. OPアンプの雑音計算シートを作りましたので共有します。ダウンロードして使ってください。

Opamp9

https://docs.google.com/spreadsheets/d/1nDz9KKRy0ic8bZzPsg_GH6UrhJKb7QhfMEOA7ixdMv4/edit?usp=sharing

 

 

 

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