ダイオードスイッチの設計(1)
高周波の信号をON/OFFする回路として、ダイオードスイッチという回路があります。
基本は次の図のような回路です。Vbiasに電圧をかけてダイオードがONしたらVinとVoutの間の抵抗値が低くなり、Vbiasの電圧を止めるとダイオードがOFFしてVinとVoutの間の抵抗値が高くなるというものです。
この図の回路を直列型といいます。
もう一つの構成方法として、並列型というのがあります。
このタイプではVbiasをかけてダイオードがONしている間はVinがGNDにショートされるのでVoutに抜けてこないというわけです。
なお、上の図には描いておりませんが、VinとVoutはGNDにショートされるわけではなく、DCを阻止するためのコンデンサがあるので、Vinの前とVinの後にコンデンサがあると思ってください。
直列型と並列型のどちらでもダイオードスイッチは構成できます。
さて、原理は上で述べたとおりなのですが、回路図どおりに作ると1GHzくらいで使えなくなってしまいます。使えなくなるというのは、ONしていてもOFFしていても同じくらい漏れてくるということです。
以下、その理由を説明します。
ONしたダイオードは抵抗+寄生インダクタ、OFFしたダイオードはコンデンサ+寄生インダクタとして考えます。ダイオードはONするかOFFするかで中身が抵抗になるかコンデンサになるかが変わる素子として考えます。
だいたいの場合、Rsは5~10Ω程度、Rpは100kΩくらいです。RsとRpは結果にあまり影響を与えません。
Lsは1nH以下ですが、これはダイオードの中のボンディングワイヤや配線に起因しています。高速プリント基板の配線をしていれば、配線長1mm≒1nHという関係式が染みついていると思いますのでダイオードのサイズを見ればだいたいのインダクタンスはわかるでしょう。
Csは高周波特性に大きな影響を与えます。高速なPINダイオードだと0.045pFくらいになります。
これらを用いてON時とOFFのインピーダンスを求めますが、順電圧を加えたときの抵抗値をRf、逆電圧を加えた時の抵抗値をRfとすると、
Rf=R+j(ωL) ・・・順電圧(ON)時 (式1)
Rr=R+j(ωL-1/ωC) ・・・逆電圧(OFF)時 (式2)
となります。
次に、ONとOFF時の挿入損失を計算します。挿入損失は、
IL=-20log|2Z0/(2Z0+Zd)| ・・・直列型 (式3)
IL=-20log|2Zd/(2Zd+Z0)| ・・・並列型 (式4)
となります。
ここで、Zdというのは、ON時のインピーダンスRfと、OFF時のインピーダンスRrのことで、直列型の挿入損失を求めるには式3のZdに式1と式2のRfとRrを代入するような計算をします。
まず、「マイクロ波工学」の例題11.1に出ているMicrosemi社のUM9605PINを例に計算してみます。
C#でプログラムを書いて0.1GHz~20GHzまで計算しました。
教科書の例題では1.8GHzで、ILon(直)=0.14dB、ILoff(直)=6.0dB、ILon(並)=0.11dB、ILoff(並)=13.3dBなので、並列型の方がON時とOFF時の減衰の差が大きくなるという答えが載っていて、上のグラフでも同じです。
要するに、ONとOFF時の減衰量の差が大きい方を選べばよいわけです。
灰色の線(並列シャント時のON)にピークが出ていますが、並列時のONというのはダイオードがOFFしているときなので、ダイオードはコンデンサになっていて、コンデンサとリード線やボンディングのインダクタンスが共振して抵抗値0になっているわけです。
スイッチのON(ダイオードのOFF)なのに損失が大きいということは期待したものとは逆の動作ですし、周波数も微妙な加減で決まるので使いにくいと言えるでしょう。
黄色やオレンジの線が青や灰色よりも大きいところでダイオードスイッチとして動作します。
さて、本題に入りましょう。MACOM社のMADP-011029-14150Tというダイオードを使った場合の計算をします。
このダイオードはシャント型で使うことが推奨されていて12GHzまで使えるとのことです。
計算してみると14GHz付近にピークがあります。(もしかしたらLsの読み方を間違っていて、本当は10GHzくらいかもしれません)
ただし、これはOFFしているはずのダイオードが筒抜けになっている状態なので、使いものになりません。使えるのはせいぜい6GHzくらいまででしょう。
最後は本命のMADP-000402-12530Pです。
ガラスパッケージで、すぐに割れて壊れる非常にデリケートなダイオードです。
計算した限りでは変な共鳴ピークはなく20GHzまで使えそうです。
ただし、周波数が高いところではONとOFFの差が少なくなってきて、あまりよい性能が出せません。
これを改善する方法として、ダイオードに並列にLCを入れるというテクニックがあります。
ダイオードがOFFするとコンデンサになるので、Lextとで共振させてインピーダンス∞にしてやろうというわけです。Lextは、ダイオードの中のコンデンサと共振させることで阻止したい周波数から計算して決めます。16GHzくらいにする場合は1.5~2nHとなりました。幅があるのはプリント基板の配線は1mm≒1nHなので、その分を引いた微妙な加減が求められるからです。
なお、CextはDCカットのためのものなので、何pFでも構いません。10pFくらいにしておけば無害です。
ダイオードに並列にLを入れた回路の特性を次の図に示します。ある周波数で直列offの減衰量(オレンジ)が大きくなって大きな減衰比が得られることがわかります。
周波数に依存する特性になってしまいますが、1nH~2nHのインダクタをダイオードに並列につなぐだけで特性が改善できるので効果的なテクニックと言えるでしょう。実際にはここまで鋭いピークにはならず、頑張っても8dBくらいのON/OFF比しか取れませんが、性能は改善できます。
まとめると、
- 並列型と直列型の両方で計算して、ON時とOFF時の差が大きいほうを選ぶ
- 並列型は共振してしまう周波数では使えない
- 周波数特性を改善するにはLCを並列に付けるのだが、周波数特性が激しくなる
です。
基本的には小さなパッケージのダイオードほどCが小さいので高周波まで使えます。
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